顔がない




盆がすぎて、すっかり冷たくなった川ではもう泳げないが、まだまだ暑いので子どもらは川に集まってくる。

一日中遊び呆けての帰り道、ぞろぞろ連なって歩いていると、よく呼び止められる。
「西瓜が冷えとるで。みんなで食ってけや」

こんな時、人数分に分けられたおやつが、ひとつ足りないことがある。
「おンや、いっこ足りねぇな?」
大人が首をかしげると、子どもらは顔を見合わせる。そういえば、見知らぬ顔が一人いたような気がすると。

川で水遊びをしている時、神社の境内でかくれんぼをしている時、小学校の校庭で鬼ごっこをしている時。 みんなでワイワイと遊んでいると、一人か二人あとから顔が思い出せない子がいたりする。
「桃吾、見―っけ!」
かくれんぼの鬼役の子をその時はっきり見たのに、あとからあれは誰だったのかと、顔がどうしても思い出せない。

「タヌキがまじっとったんじゃ」
年長の子がそう言ってみんな笑う。
別に人でないものが混じっていてもかまわない。自分たちと遊びたいのなら、いっしょに遊ぼうと思う。


  しかし、こういうこともある。


小学校の校庭で、十人ぐらいで鬼ごっこをしていた。
陽射しが強く、まぶしい光の中、地面に落ちる影が墨のように黒かった。
鬼役の子が、桃吾を追いかけていた。
「待てー!」
「待たーん!」
桃吾は、楽しくて笑いながら走った。

ふと、その時―――

走っている自分の姿が、どこか上の方から見えた。そういうイメージが、頭の中にぽんと浮んだのだ。

「あれ?」

時間が止まっているように感じた。イメージの中で、強烈な太陽光線に照らされた桃吾の影が、真っ黒に伸びていた。
だがそれよりも黒かったのが、鬼役の子だった。
全身が真っ黒だった。まるで、影そのもののようだった。そしてその子の足元には、影はなかった。

ハッとして桃吾が振り向くと、そこに鬼役の子はいなかった。
向こうの方で、ユウヤがみんなを追いかけていた。鬼役はユウヤだったのだ。



あの黒い子につかまったらどうなっていたのだろうと、桃吾は思った。




それでも、こんなことはめったに起こらない。

たまに、である。