漆黒




晩秋の空を血の色に染めて、夕陽が沈んでゆく。
夕闇が、まるで生き物のようにするすると辺りを呑み込んでゆく。
それに後を追われるごとく急ぐ家路。小さな子どもたちの歩みが、自然と早足になる。

こんな時は、そこここの暗闇に何かがじっと佇んでいる感じがするのだ。
目をこらせば、それら物言わぬ存在の輪郭が、うっすらと見えてくるような気がする。
それらは何をするでもなく、ただじっとしているだけだ。
ただじっとして、ひたすらこちらを見つめているのだ。目をそらさず。

「アイタ!」
遊び疲れた帰り道。桃吾は何かにつまづいて転んだ。その拍子に草履の鼻緒を切ってしまった。
すりむいた膝小僧をぺろぺろ舐めながら鼻緒を直そうかどうか考えている時、ふと目の前の、家と家の狭い隙間に目が行った。
黄昏に刻々と沈みゆく景色の中で、その小さな暗がりは墨を流したような漆黒で、桃吾はそこに何かの気配を感じた。
何かが、しゃがみ込んでいる。折り曲げた両足を抱かかえて丸まって。
その姿から、人間のように見えた。そして顔は、顔は―――


「桃吾」
突然腕を捕まれて、桃吾はびっくりした。年長の友だちのオウタが立っていた。
「あ、オウちゃん」
「帰るぞ」
オウタは桃吾の草履を手に取り、桃吾をおんぶした。なんだか早足でその場を去ってゆく。
桃吾は、ちらりと後ろを振り向いた。暗闇はまだそこにあったが、どんどん広がってゆく大きな闇の中に溶け込もうとしていた。
「あのな、オウちゃん。さっきな、暗いとこにな」
「うん」
オウタは、桃吾の話をやんわりとさえぎった。
「あんま暗いとこ、一生懸命見るな」
そういえば、同じ事をおじぃやおばぁに言われたと、桃吾は思い出した。
「うん」


桃吾は、オウタにおぶわれて家へ帰った。
村を包んでゆく夕闇は優しかった。