月がとっても青いから




桃吾は、ハヤトのおじぃの家に将棋を指しに行ったおじぃを迎えに行った。


  夕暮れ。ハヤトの家に着くと、おじぃ同士で酒盛りの真っ最中だった。

「ついでにお前もメシ食ってけや」
ハヤトのお母に言われて、桃吾はハヤトの家族といっしょに夕飯を食った。そのあとは、ハヤトとめんこをして遊んだ。
桃吾とおじぃがハヤトの家を暇乞いとまごいしたのは、夜もすっかり更けてからだった。


ハヤトの家から桃吾の家まで、満天の星空の下、丘ひとつ越えてゆく。

森から畑から田んぼから、たちのぼる緑と水と土の匂いが体を包み込む。 冷めやらぬ昼間の熱気が、木陰や花の間にひそんでいる。だが夜の闇には、もうねっとりとからみつくような密度はなく、空に浮ぶ月の輪郭もクッキリとしていた。

「もう、秋やの」

豊かに色づいた稲の上を風が渡ってくる。ざわざわと波のようにたゆたう黄金の大地。

酒が入ってよほど御機嫌なのか、おじぃは得意の詩吟を唸りはじめた。
道の向こうまで見渡せるほど煌々とした月明かりのもと、おじぃはふらりふらりと気持ちよさげに漂った。 桃吾はそのおじぃに手を引かれ、同じようにふらふらと歩いた。 その時、ふと夜空を見上げた桃吾は、仰天した。

「おじぃ! お、お月さんが二つある!!」
桃吾が指差した濃紺の空に、まるい月が二つ並んでいた。
桃吾とおじぃはポカンとしたが、おじぃはすぐに大笑いした。
「通りで、やけに明るいと思うたわ」
「お月さんが二つあるで! なんでじゃ? なんでじゃ?」
「し――! 桃吾、静かにせぇ」
おじぃは腰をかがめると、桃吾にささやいた。
「どっちかのお月さんはニセモノじゃ。こりゃあな、タヌキかキツネの仕業ぞ。わしらを化かそうとしとるんじゃ」
「ホ、ホンマか!? わしら化かされるんか? どうしよう、おじぃ!」
怯える桃吾の頭の毛を、おじぃはゴツゴツの手でかき回した。
「まぁまぁ。ここは、おじぃに任せえ」
と言うと、おじぃはコホンと一つ咳払い。次に息を大きく吸い込むと、並んだ二つの月に向かって大声で吠えた。

「ゥワンワンワンワンワン!!」

それは、本物の犬の鳴き声そっくりだった。
パチッ!! ―――と、電気を消したように、目の前が真っ暗になった。



一瞬静まり返った闇の中に、虫の音と蛙の合唱がゆるゆると戻ってくる。




「……そーいやぁ、今夜は新月だったわぃ」



月はふたつともニセモノだった。